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この国を滅ぼしたくない

かつのりコラム

高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第三十六想】
2002.06.01

 田植えが終わった。役場の建つ西部台地から遥か東を見渡すと、田は一面に水を湛えている。晴れた日には、水面は鏡となって青空を映している。この情景を見てある人は「水面に映っている空の面積の分だけ、この町の面積が増えたよう」と言った。

 

 そんな水田の中に、例年に比べてだいぶ早く熟れ色になった麦畑が、パッチワークのように点在する。麦秋である。夜、田の畦を歩いていると、頬を撫でる風とともに水の匂いを感じる。懐かしい匂いだ。この感覚は、今の私の命に繋がるとても長い時間の中で、私たちの命を繋ぎ続けてくれたものに対する懐かしさであろう。私の記憶の底に沈んでしまっていたDNA(遺伝子)の記憶が、懐かしさをともなって目を覚ますのかもしれない。毎年今頃は、高根沢の良いところをひとつひとつ、私に再確認させてくれる季節である。

 

 私が町長に就任してから丸4年が過ぎようとしている。この間、私は訴えつづけてきた。「オンリーワンの町を!」と。そして町民の皆さんからは「オンリーワンの町を!」ってどういう町?という質問もたくさんいただいてきた。今任期最後の「夢だより風だより」では、この考えについて書きたいと思う。

 

 「オンリーワン」とは、道路や箱もののことを指してはいない。出来上がった物や商品のことでもない。抽象的だが、目的ではなく手段であると考えている。だから「オンリーワンの町を!」と私が訴える意味とは、この町を共に創る町民の皆さんが「オンリーワン」の生き方を考え、その生き方をベースにして、主体的に町づくりを実践する姿だということができる。

 

 私がこれまで「行政参加の町づくり」という言葉を使ったのも、これからの行政の本当の使命とは、そのような町民の皆さんをいかに支援することができるか、にかかっていると考えたからである。言い方をかえれば、町民の皆さんが安心して暮らしつづけるには、決して機能性・利便性や快適性・高速性だけではなく、自分達の求める暮らしや様々な環境に対して、住民も自ら提案でき、かつ協力し地域に貢献しながら、自分達の住みやすい町を創りあげていくことのできる仕組みを作ることが、町づくりの最も重要なポイントであると考えたからである。

 

 そうなると次には「オンリーワン」の生き方とは何ぞや、ということになる。私の考えるその生き方とは、「常に他者との比較の中で生きるのではなく、自分でしか生きることのできない人生を生き抜くこと。そして自分の為にを考えながらも、それがみんなの為につながること。自分達の町を自分達で創造し作り上げていくことに喜びを感じること。自分の町が好きと言えるようになること」である。

 

 私はこれまで「夢だより風だより」のなかで、たくさんの人々のことを書いてきた。それらはすべて、私の信じる「オンリーワン」の生き方を実践されている方々であった。もちろんそんな方々をすべて書けたわけではない。今日(5月22日)も上高根沢で、炎天の中、県道沿いの土地に、花いっぱいの花壇を新たに整備するために汗だくになっておられた方々を見た。上高中部の赤羽公民館長と役員の皆さんであった。また6月16日には「上高ふれあいセンター運営委員会」(赤羽功至会長)の皆さんが、上高ふれあいセンターの敷地とその周辺の草刈りをしてくださる予定だとも聞いた。この施設は町の図書館と保育園の複合施設であり、通常は町当局が税金を使って草刈りをすることが常識かもしれないが、毎年地域の皆さんが行ってくださっているという。

 

 私たち大人は、これから私たちを支えてくれるであろう子ども達に、夢のようで夢でない、自分達の住む町を考え、自慢できる町にしていくための姿を、行動を持って示していく役割があると思う。

 

 そしてそのことを、町のどの地域でも、当たり前のこととしてできるようになったときに、私の訴えてきた「オンリーワンの町」ということができるのだと思う。

 

 4年間の町民皆さんのご協力に感謝し、筆を置くこととする。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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