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この国を滅ぼしたくない

かつのりコラム

高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第百十八想】
2012.09.01

八月に想う

 「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。~中略~われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」

 

 これは日本国憲法前文の一部です。毎年終戦記念日の八月十五日にはこの日本国憲法前文を読み返していますが、今年は尖閣諸島や竹島などのこともあり、複雑な気持ちで読み返しました。

 残念なことですが国際政治とは普遍の道理ではなく、軍事・経済の優劣によってどのようにでも変わる非情なものだと、あらためて感じています。もっともこのようなことは、国際政治の舞台だけではなく私たちの日ごろの人間関係においても同じですから、置かれた立場によって「無理が通れば道理が引っ込む」ことを肌感覚で私たちは知っているはずです。

 

 朝日新聞の記事によれば、中国共産党機関紙・人民日報は一九五三年一月八日付けの紙面に「琉球群島の人民による米国の占領に反対する闘争」と題した記事を掲載し、九州の西南には尖閣諸島や沖縄諸島などからなる琉球群島がある、と紹介しています。尖閣諸島が琉球群島の一部であるとのこの記述は、まだ中国が尖閣諸島の領有権を主張していなかった頃のことですが、一九六〇年代末に国連の海洋調査によって尖閣諸島付近に石油などの海洋資源が豊富な可能性を指摘されると、中国は主権を訴えるようになりました。一九七二年の日中国交正常化交渉で、当時の田中角栄首相に対し周恩来首相は「石油が出るからこれ(尖閣諸島)が問題になった」 と明言しています。

 

 「諸国民の公正と信義に信頼」しようとしても、「政治道徳の法則は、普遍的なもの」と信じようとしても、憲法前文の理想とはかけ離れた国際政治の現実に直面せざるをえませんが、だからこそ選ばれし政治家は、長期・中期・短期の視点と展望をもとに戦略・戦術を立て、国を守らなければならないのだと思います。歴史から学ぶことには際限がなく、まだまだ勉強が足りないと自覚した八月でした。

 

 

日本人の源を知ろう

 原稿締め切りの今日、「高根沢町童謡をうたう会」十周年記念コンサートが開催されました。美しい歌は少年時代の風景とよく似ています。人を優しく包み込み、背中をそっと押してくれます。どの歌の詞にも森、川、海、空、星、月、父、母そして「山はあおき故郷、水は清き故郷」。そこには日本人の源がありました。

 

 日本は縄文時代以来、国土の六十%よりも森の面積が小さくなったことはありません。森を守り、その森から流れてくる栄養分が水田を潤し、その水田の中にいる生物の多様性が維持される。そして栄養分を含んだ水が海へ流れていって微生物を育て、さらに海草や魚介類を育てる。それを人間が食べるという水の循環系を基本にするライフスタイルを築き上げてきました。一神教の人々にとっては、山は悪魔や魔女の暮らす暗黒の世界であり、それゆえに征服されるべき魔の山でしたが、「山川草木悉皆成仏」あらゆるものに魂があると考える多神教の世界で生きてきた日本人にとっては、山は神々の住まう所であるとともに、死後に帰る場所でもあったのです。海草や魚介類からとる伝統的日本食の「旨味」はこのような自然観に基づくライフスタイルが生み出したものでした。

 

 戦後、アインシュタインが来日した時、彼は「日本人の心の優しさや美しい立ち居振る舞い、正直な心の原点が日本食にあるのではないか」と述べています。また一九七七年にアメリカで発表された「マクガバンレポート」、これはフォード大統領がアメリカ人の食生活に危機感を覚え、マクガバン上院議員を委員長とした委員会を作り世界の食事情を二年間にわたり調べさせたものですが、この中で雑穀を主食とし、海草の入った味噌汁、旬の野菜と近海で捕れる魚を副食とする日本の伝統食に大きな評価を与えていました。今ではアメリカに一万店以上の和食店ができています。日本には世界が素晴らしいと憧れる固有の文化があるのです。

 

 日本と日本人の歴史を知り、真によい意味での誇りを持つことは、国際政治の中で最も大切なことだと思います。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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