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この国を滅ぼしたくない

かつのりコラム

高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第百十一想】
2012.02.01

幸福論

 最近、幸福論が盛んに行われています。ブータン国王夫妻の来日がきっかけかもしれません。一口に幸福といっても、人によって捉え方は様々ですからとても難しい問題です。したがって幸福感のような「心の問題」は科学によるアプローチが難しい領域だと思います。しかしこの問題を少しでも理解したいと思い、年末から関係する本を積み上げて自分なりに勉強をしてきました。そのことについて、「目から鱗が落ちる」事実を報告いたします。

 

 脳科学では、幸福感をもたらすドーパミンやベータ・エンドルフィンなどの脳内快感物質が、どのような時に分泌され、脳のどの部分が活性化しているかが分かるようになってきました。私たちの日常の中で感じる、たとえば勉強して分からないことが分かった瞬間や難題に挑戦してそれを成し遂げた時に感じる喜び、美味しいものを食べた時の満足感、恋人と言葉を交わしたり見つめあったりする時のうっとりとした気持ちなど、このような時に人間の脳内ではそうした感覚をもたらす神経伝達物質が分泌されています。そして神経伝達物質の中で幸福感や快感をもたらす物質が、ドーパミンやベータ・エンドルフィンなどの脳内快感物質と呼ばれるものなのです。

 驚いたことに、最新の脳科学研究では、人間が利他行動によって恋愛などよりもずっと大きな快感を得ていることが示唆されています。つまり、利他の振る舞いが大きな幸福感を生むことが脳科学研究の進歩によって分かってきたというのです。利他とは利己の反対であり、他の人の幸福を願うということです。

 他の人の幸福を願って行動することが、己にも幸福をもたらすという脳の反応を、脳科学者はこんなふうに説明しています。地球の歴史上、数え切れないほどの生物が絶滅した中にあって、人類は共に助け合うことで生き残り、繁栄してきました。共生したからこそ生き残れた、ということが人類共通の記憶として私たちの脳には刻み付けられています。例えば食欲を満たすことが快感であるのは、それが人間個人として生き残ることに直結しているからですが、それと同様に、利他行動が快感をもたらすのも、人類全体として生き残ることに直結した本能的なものだからなのではないだろうか。そして、このような喜ぶ仕組みが脳に備わっているということは、人間に本来、「利他行動をしようとする志向性」が備わっているという証拠なのである、と。

 

 また一方、ハーバード大学におけるポジティブ心理学と脳科学の研究では、これまで私たちが信じて疑わなかった「努力すれば成功する、成功すれば幸せになれる」という図式が、成り立たないことが証明されました。つまり、成功と幸せの関係は、まったく逆の関係にあることが証明されたというのです。ハーバード大学で学生の評価が最も高いポジティブ心理学講座を担当していたショーン・エイカーは次のように述べています。幸せは成功に先行するのであり、成功の結果ではない。幸福感そのものが競争の源泉となるのであり、幸福感を持つ人は実際に業績を高め優れた成果を得ることが出来る。脳を前向きでポジティブな状態にすれば、モチベーションが高まり、効率的に働け、挫折から立ち直る力が湧き、創造性が増し、生産的になる、と。

 

 ブータン国民の価値観や行動規範の根底にはチベット仏教の教えがあり、その教えから導かれる考え方は、現世の自分の幸せのみならず家族友人の幸せ、現世の功徳による来世の幸せであり、また、人間がコントロールできる範囲はそんなに広くないのだから、人間の力を過信してはいけない。大自然の中では人間は無力であり、また現世でもがいてもどうすることも出来ない前世からの因果もある、というものです。

 経済の尺度では豊かとはいえないブータン国民のほとんどが幸せを感じているという事実。これをどう解釈すればいいのかと思い悩んでいましたが、脳科学とポジティブ心理学は、解決の糸口を与えてくれたようです。

 

※ブータンの「国民総幸福」指数については広報たかねざわ平成十三年六月号「夢だより風だより」で町民の皆様に紹介していました。参考までに申し添えます。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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