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高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第百二十三想】
2013.03.01

八千円のおつりが変えた人生

 「大平光代」という名前をご存知でしょうか。平成十二年に「だから、あなたも生きぬいて」(講談社)という本が二百六十万部のベストセラーになりました。その作者が大平光代さんでした。大平さんは中学時代にいじめを受けて自殺を図りました。その後、非行に走り、十六歳で暴力団の組長と結婚。二十二歳の時に養父・大平浩三郎氏と出会い、立ち直り、独学で宅建や司法書士の資格を取得し、二十九歳の時に司法試験に合格。現在は少年事件を中心に担当する弁護士として活動されている方です。平成十五年から十七年まで大阪市助役(当時)も務められました。

 大平さんが強盗致傷罪で担当した少年の話です。彼は小さい頃、お父さんについてタバコ屋さんに行きました。その時、お父さんがタバコ代として五千円札を出したところ、おつりとして八千円と小銭が返ってきました。少年は「お父さん、おつり多いやんか。おばちゃん、間違えてはるで」と言うと、お父さんは彼を殴りつけて「余計なことを言うな。黙ってたら分からへん」と言い放ちました。この経験が少年の人格の根っことなって、後に彼は万引きを繰り返し、最後はひったくりを行って被害者が怪我を負ったために「強盗致傷罪」に問われることになりました。

 少年のお父さんは一流企業に勤めるエリートサラリーマンで、少年に対して「お前には十分に小遣いを与えていたはずだ」と怒りをぶちまけていたそうですが、もしこのお父さんが、「誰が見ていなくても、お天道様が見ているんやから、おつり返しに行かなあかんな」と言って返していれば、この出来事は少年にとってまったく別の人格の根っことなったに違いありません。少年の人生に対して、このお父さんが大きな罪を犯してしまったと感じると同時に、大人の行動の一つ一つが、子供たちの人格の根っこを作り、その子の人生を左右してしまうことに対して、自分自身の行動を含めて背筋が伸びる思いでした。

 

 

八田與一

 先の東日本大震災直後、日本は各国から様々な援助の手を差し伸べていただきました。その中で総額二百五十億円という世界でも最高額の民間義援金を贈ってくださったのが台湾でした。日本との正式な国交がなく、人口も僅か二千三百万人に過ぎない台湾が、なぜここまで手厚い支援をしてくださったのか。昨年十二月に台湾で実施されたアンケート調査では、世界で一番好きな国は日本と答えた人が全体の四十一%を占め第一位(第二位のアメリカは四%)、世界で最も親しみを感じる国は日本と答えた人は七十四%にも上りました。なぜ台湾の人達は、かつて植民地として統治した日本に対して、これほどまでに熱い眼差しを送ってくださるのか。そんな疑問を持って日本と台湾の歴史を調べていた時に、ひとりの日本人の名前を知ることになりました。その名は八田與一。彼は日本が台湾を統治していた時代に、旱魃と洪水と塩害によって不毛の地とされ、そこに住む六十万人の住民が飲み水にも困っていた十五万ヘクタールにも及ぶ嘉南平原を、大規模灌漑事業によって台湾最大の穀倉地帯に変えた台湾総督府の技師でした。台湾の高雄日本人学校の卒業式では「日本人技師の銅像がたった一つだけ嘉南の人達の手で現在も守られていることを皆さんは知っていますか。皆さんは将来、外国で活躍するようになるかもしれませんが、この日本人技師のように現地の人々からも慕われ、尊敬されるような立派な日本人になってください。」との祝辞が述べられています。「台湾を愛した日本人」(古川勝三著創風社出版)には、『「あなたは日本人だから〝日本精神?を持っていますよね。日本精神を持っているあなた方日本人を、私たち台湾人は心から尊敬しています。」日本精神。恥ずかしながら私はその意味を知らなかった。日本精神とは、嘘をつかず、己の失敗を人のせいにせず、卑怯なことをせず、己のやるべき仕事に全力を尽くす精神を意味する言葉だと、日本ではなく台湾で、台湾人に教えられた。』とありました。

 果たして、私たち日本人は今、この言葉に恥じない生き方をしているでしょうか。かつて、貧しくとも誇りを持って公のために生きていた日本人の姿こそが、今日でも世界の人々から高く評価され、かつ求められている気がしてならないのです。そして、次世代に語り伝えていくべきことだと思っています。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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