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高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第三十八想】
2002.09.01

 「損得で判断する前に善悪で判断する」。当たり前すぎて簡単なことだが、これを行うとなるとなかなか難しい。私たちは子どもたちに「物事は損得で判断しなさい」とは決して教えない。「善悪で判断して欲しい」と願っているし、「青少年健全育成」などといういかつい名前の運動も、とどのつまりは「物事を善悪で判断する」人間に育って欲しいが為の運動であると思っている。

 

 しかし、そんな大人たちの願いを無にしてしまう大人たち自身の行いが続いている。私たちが何を言おうとも、子ども達からまったく信用されない事態を招く行いである。

 

 国内ではBSE(牛海綿状脳症=狂牛病)対策を悪用した「ごまかし」が次々に明らかになった。詐欺という立派な犯罪である。アメリカでは「エンロン」「ワールドコム」など倒産した大企業の粉飾決算が明らかになった。しかも決算をチェックする役目の会計事務所までが加担した「ごまかし」である。商社は、日本から種子と技術を中国に持ち込み、安い労働力で農産物を生産し日本に輸入する。しかも「儲ける」という構造的な意識付けの過程で、生産性向上の為に使用禁止農薬を使うこともいとわない状況を生みだしている。そして、未来の子ども達の命を犠牲にしながら、安ければよいと食べるのは日本人である。これらすべて「損得」で判断した大人の行いではないのか。子ども達はしっかりとそのことを見ている。

 

 マハトマ(偉大な魂)と呼ばれたインドの独立指導者ガンジーはこんな言葉を残している。「原則なき政治、道徳なき商業、労働なき富、人格なき教育、人間性なき科学、良心なき快楽、犠牲なき信仰」。現在アメリカでいわれている「倫理なき資本主義は崩壊に向かう」とは、ガンジーの「道徳なき商業」と同じ意味である。かつて二宮尊徳が農村復興計画にもちいた「道徳力」の思想も同じであろう。さらにまた、アメリカにおいて資本主義をここまで発達させたその要因は、建国の中心を担った勤勉な清教徒(ピューリタン)が持つ「正直は最上の商略」との考え方であった。信仰がもたらす日常の生活態度に支えられた、「あの店に行けばごまかしのない物が、ごまかしのない値段で買える」という信用がアメリカ資本主義の礎となったのである。私がこの町の農業者の皆さんに機会あるごとに訴えている「儲ける農業ではなく、儲かる農業を!」も同じ考え方の上にある。

 

 今年の夏祭り、私は地元西町で子ども達と一緒に神輿を担いだ。神輿の道程には何箇所かの休憩場所がある。その最後の休憩場所に「谷口医院」駐車場があった。「今日あたり夕立がほしいね」などと話が出るくらいの炎天のなか、神輿は駐車場に向かった。着いてみると、広い駐車場には一面に「打ち水」がしてあった。アスファルトの照り返しは厳しいものがあるが、そこには「打ち水」の蒸発作用によって涼しい風が流れていた。院長先生の御母堂である英子さんは「子ども達が休むのに、私に出来ることはこんなことぐらいしかありませんから」とおっしゃった。全身汗まみれの私の身体の中に爽やかな風が吹きはじめ、息を吹き返したような思いになった。「至誠は進んで行う・・求められ注文されないことまで進んで行うのが至誠」と二宮尊徳は言っているが、その言葉以上に、英子さんの姿には居住まいを正した本当の美しさがあった。

 

 この原稿を書いている今日はもう八月の末。蒼い空に絹雲が流れ、トウモロコシ畑の向こうに入道雲がわいている。夏と秋のゆきあう空。空も雲も「損得」抜きに美しい。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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