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この国を滅ぼしたくない

かつのりコラム

高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第六十二想】
2005.02.01

 毎年この時期は心の中に寒風が吹く。荒涼となり、ささくれだつ。

 

 なんでか? それは予算編成の時期だからである。町長ともなれば、予算編成では町長が自由に使える財源が用意されていて好きなように予算をつけられると考えていたが、それはとんでもない思い違いだった。実際は「予算を組むためにはあと五億円削らなければなりませんが、どれを削ればいいでしょうか」と、財政担当者から予算書の束を前にして迫られる、というのが現実だった。

 

 高根沢町はありがたいことに人口が増えつづけているが、税収はそれに比例しては伸びない。国や県からの財政支援も、かつてのようなバラ色の時代は夢の彼方である。対して、町民の方々の行政に対する要望は多様化してきている。大都市近郊から越してこられた方々は、水や空気といった田舎ならではの環境を喜んでくださる一方で、大都市並の行政サービスを求めてこられもする。

 

 要望に応えるには、職員を増やし、借金をしてでも物と金をふんだんに投入すればよい。しかし次世代のことを考えれば、一方で我々には厳格な行財政改革を断行しなければならないという課題が重くのしかかっている。行財政改革をしながら一方で行政サービスを維持しなければならないという二律背反の課題である。

 

 そんな不可能を何とか可能に近づけることができないかという議論の中から出てきたものが、この六年間に打ち出してきた、財政のバランスシート化でありISOの取り組みであり、さらには行政評価制度・人事評価制度であった。そしてその前段として情報公開制度があった。そしてそれらすべての根底には、より厳格に求められる行政の説明責任という考え方があった。

 

 例えば、道路整備は町民に最も身近な、そして目に見える形で分かりやすい行政サービスである。現在でも各地域から百四十二箇所におよぶ要望をいただいている。さてどの路線を選んで予算をつければいいのか。制度上は町長の裁量で個所付けができる。予算の執行権と人事権は首長の最大最強の武器であるからである。実際に私が国会議員の秘書をしていた頃、ある県内の首長は、政敵の家の前の道路に関しては最後まで整備をしなかった。途中まで整備されていてもそれは途切れ、政敵の家を過ぎてしばらくするとまた整備されていたのである。選挙で住民から直接選ばれ、それゆえに強大な権限である執行権を持つ首長にはそれが可能なのである。

 

 今、高根沢町では町長の自由にはならない。四十五の指標からそれぞれの道路を評価し、その合計点数によって優先順位が決定されているからである。指標には例えば、「公共公益施設があるかどうか」「通学路に指定されているかどうか」「交通渋滞が発生しているかどうか」といったものがあり、整備の必要性を総合的にそしてできるだけ客観的に判断している。権力を握ったものが反対派に冷や飯を食わせ、立場が逆転するとまた同じ事を繰り返すという負の連鎖は断ち切らねばならないし、そしてなによりも税金を使う以上、なぜこの路線が整備されてあの路線が整備されないのかを説明できなくてはいけないと思うのである。

 

 それぞれの地域の要望はそれぞれに切実である。議員や行政区長さんの真剣な顔が瞼に浮かんでくる。財源に余裕があればすべての要望を実現したい。それが偽らざる心境であるが、そのことが不可能である以上、必要性の高いところから予算を付けていかざるを得ない。

 

 道路評価制度を補完する意味で昨年創出した「道普請事業」についても報告したいが字数が尽きてしまった。またの機会に報告したいと思う。

 

 鹿児島県の知覧町に行く機会があった。陸軍の特攻基地があったところである。映画「ホタル」の舞台でもあった。「知覧特攻平和会館」内の壁面には、出撃していった千三十六人の顔写真。最も若い隊員で十七歳。「母上様が唱えられている般若心経を私も唱えながら敵艦に体当たりいたします。」としたためられた遺書。出撃直前に仔犬と遊ぶ笑顔の隊員たち、出撃二十分前の最後の腹ごしらえの写真。生もなく、死もなく、すでに我もない特攻隊員の心。

 

 ・・・のうのうと生きることの恥ずかしさを教えられた場所であった。また行かねばならぬ、と思っている。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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