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この国を滅ぼしたくない

かつのりコラム

高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第四十五想】
2003.05.01

 児童館「みんなのひろば」では毎月「おねえさんだより」を発行している。その中のコラムは君島静子館長が書かれている。四月号は「先生のお弁当」と題されていた。たくさんの人に読んでもらいたいと思った。ここに全文を載せる。

 同級会に出た。昭和二十七年三月に花岡小学校を卒業した四十八人のうち、十六人が集まった。お世話になった先生が三人もおいでくださった。

 

 一年生に入学したのが昭和二十一年四月。敗戦直後で社会全体が混乱しているさなかであったから、「ピカピカの、いちねんせー・・・♪♪」という訳にはいかなかった。つぎはぎの着物。スリッパもない。恵まれた人は、お年寄りが作ってくれたわら草履を履いていただろうか。

 

 そんな仲間が集まって、五十年以上も前の小学校生活を偲びながら酒を酌み交わす。飲むほどに酔うほどに、貧しさの中にちりばめられた楽しい生活の断片がよみがえってくる。

 

 ふと見ると、大男のTさんが、ボロボロ泣いている。タクシーの運転手をしていたTさんは、車の外も中もいつも一番きれいで評判だったという。そんな話を聞いたばかりのTさんが、二年生のときの担任だったS先生の膝元にしゃがみ込んで、「ああ、もう、たまんねえ。きょうはもうだめだ・・・」といいながら、手当たり次第におしぼりをつかんで涙をぬぐっている。

 

 Tさんは、S先生と話をしているうちに思い出したのだ。お弁当を持ってこられず、校庭で一人遊んでいたTさんを、S先生が教室に呼び戻して、自分のお弁当を食べさせてくれたことを。

 

 胸がきゅんとなり、熱いものがこみあげてくる光景だった。五十数年ぶりに再会した師弟が、こんなにも美しい思い出で結ばれていたなんて・・・言葉にならない感動が突き上げてきた。

 

 同級会に出て本当によかった。人生っていいもんだな、と、しみじみ思った。

 そして考えた。

 

 今の子供たちが大人になり、何十年後かに先生と再会したとき、どんな涙を流すのだろうか・・・と。

 TさんはS先生から教わったにちがいない。自分の力ではどうにもならない状況にあるとき、大人=社会は助けてくれることを。人間を信じていいことを。社会は信じるに足るものであることを。だから、まっすぐに人生を歩み、優良運転者として仕事を全うすることができたのだろう。

 

 「組織は権力で動かすものでなく、感動で動くもの」という松谷教育委員長の言葉を思い出す。「感動」を施策の原点に、という質問をされた松本潔町議の心が伝わってくる。

 

 『一日の収穫と子供らをリヤカーに乗せ、お父さんが引き、後ろからお母さんが押し。クワを担いだおじいさんが付き添っている。引き込まれるようにそれを見つめていた父が、突然「公平、幸せっていうのは、こんなもんかもしれんな」とつぶやいた。幸せは彼方にあるのではなく、人が気づこうが気づくまいが、実は日々の暮らしに何げなく添うておるのやないか。幸せは身近なところに。それを感じられる人の胸の中に。』

 中坊公平氏の文章である。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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