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高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第三十二想】
2002.02.01

 今年の成人式も昨年度と同じに、成人者みずからの手による実行委員会の形をとって、昨年の5月から準備が始まった。そして昨年と同じに成人者代表に対する私の第一声は「無理に式典をやる必要はどこにもない。君たちにとって必要のない式典ならば、それは税金の無駄遣いになる。そこから議論を始めてほしい」であった。

 

 度重なる会議の結果、成人者の企画による「成人式」が去る1月13日におこなわれた。新聞やテレビでも報道されたが、地元立地企業である本田技研の2足歩行ロボット「アシモ」が登場し会場を大いに沸かせたことは記憶に新しい。「アシモ」の開発は1986年「鉄腕アトムを創れ」の一言から始まったという。

 

 機械でありながら人間よりも人間らしい心を持ち、敢然と悪に立ち向かうアトムの姿は子どもたちの夢であった。その夢実現のプロジェクトが「アシモ」であるならば、成人式に最も相応しいとの実行委員の判断はもっともであった。

 

 しかし越えなければならないハードルは高かった。第一に、はたして成人式典に参加してくれるかどうか。前例は皆無。第二に、費用がどのくらいかかるのか。たとえ実行委の企画であっても、納税者の理解を得られないような費用を負担することはできない。すべて税金で賄われているという意識を、成人者だからこそ持つべきなのである。成人者の熱い思いを十分にわかってはいても、私は冷たく言い放つしかなかった。

 

 そこから成人者たちの奮闘が始まった。本田技研との交渉も彼ら自身によってである。最初から色よい返事がもらえるわけがない。何といっても企業秘密の塊であり、各種企業のPRにひっぱりだこのアシモである。費用もかかる。私は、当初に組んである予算以上の金は無いと冷たく言い放っている。それでも成人者たちは、アシモの参加が不確定な状況の中で行動を起こし始めた。どのような相談があったかは定かではないが、まずアルミ缶の回収を始めた。さらに文化祭では焼きそば・綿アメの模擬店を出して不足する資金を貯め始めたのである。

 

 私は彼らの奮闘を静かに見ているほかに術がなかった。ホウレンソウの根っこに近い赤いところの甘味と旨味はみずからの力でしか作れないからである。

 

 ある時、ホンダ高根沢工場の工場長にお会いする機会があった。彼らの奮闘ぶりを正直に申し上げた。いたく感動されているように私には思えた。

 

 人間の夢を実現するべく多くの困難を乗り越えて来たホンダイズムの結晶である「アシモ」。そして夢の象徴であるアシモを呼ぼうと努力しつづけた成人者。

 

 式典の最後に、伝説のおやじバンド「イッチャンず」も参加して成人者と一緒に歌を唄った。唄いながら私の脳裏には、汗だくのアルミ缶回収や慣れぬ手つきの模擬店の情景が去来していた。髪はまっ黄っ黄だったが、責任感が強く、礼儀正しく、細やかな気配りを忘れなかった成人者たちも想い出された。唄いながら、ときどき譜面がかすんで見えなくなった。

 

 今年も成人者に対する論評がいろいろなされたようであるが、論評されるのはむしろ我々の方ではないのかと思う。なぜなら、子どもたちの有り様は鏡に写った大人達の姿に他ならないのだから。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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