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高橋かつのりが自身の考えや想いを綴るコラム『夢だより 風だより』

夢だより 風だより【第五十三想】
2004.02.01

 「後姿に後光がさす」。そんな思いを抱いたのは本当に久しぶりだった。時は平成十五年十月十日。とちぎコープ生活協同組合創業三十周年記念講演「小さな実践の一歩から」。その人の名前は鍵山秀三郎氏。ゆっくりと丁寧に話をされる氏の周りの空気だけが広い会場の中でどこか違う。自分のささくれだった心がふっと平らになるような静謐。氏の言葉をひと言も聞き逃がしたくないかのように、私の全神経が引き寄せられていった。

 

 昭和二十八年、疎開先の岐阜県から東京に出てきた鍵山氏は、無一文の中で新聞広告の求人欄を頼りに就職。昭和三十六年に独立をして現在の「㈱イエローハット」を創業した。平成十四年三月末現在、四六八店舗・資本金百五十億円・年商千二百五十億円の東証一部上場企業である。

 

 「ベンチャー起業」などという言葉がもてはやされる今でこそ独立創業という言葉は聞こえはいいが、氏の独立は自転車一台の創業であり、実際は行商であった。前の会社が行っていなかった見ず知らずの所を訪ね歩いて取引をお願いして歩く。雨の日には合羽を着て自転車をこぐ。みすぼらしい行商姿になかなか名刺を受け取ってもらえない。受け取ってもらえたかと思うと目の前でゴミ箱へ捨てられ、さらにはニタニタ笑いながらちぎって捨てられる。冬はストーブに入れられて燃やされてしまう。

 

 今は亡き国民的大歌手、藤山一郎さんとのエピソードもいい。みぞれ降る二月の寒い日、合羽姿の氏はある店の扉を開けて中を窺うようにしていた。その時、「ああ、寒いでしょう。冷たいでしょう。中へお入んなさい」との明るい声と一緒に中から手が出てきて、引っ張り込むかのように氏をストーブの前まで招き入れた人がいた。「手が冷たいでしょう。お当たんなさい。丁度いいところに来た。今お団子を買ってきたところだから、ひとつ食べなさい」といって団子を一串くれたその人はなんと歌手藤山一郎さんだったのである。藤山さんは奥様が小さなガソリンスタンドを経営されていたので、たまたま寒い日に来られていたのだった。

 

 鍵山氏は言う。「ただただ、ありがたいなあという思い。そして、自分も一生を通して、こういう人間になろうと思いました。苦しんでいる人、冷たい思いをしている人に温かい声をかける。そして、その心を癒せるような人間になろう」と。一方で冷たい仕打ちをした人からも学んだという。「私は人に絶対こういくことはしない、絶対にこういうことはしないで一生を通そう」と。

 

 この日の講演資料の中に詩が印刷された二枚のポスターが入っていた。

 

 ”あいさつ”

 「おはよう」というと目がさめる

 「いただきます」というとおなかがすく

 「いってきます」というとげんきにいける

 「ありがとう」というときもちがいい

 「ごめんなさい」というとほっとする

 「おやすみなさい」というといいゆめみられる

 あいさつってうれしいな

 愛知県乙川東小学校 福島圭一郎

 

 ”はきものをそろえる”

 はきものをそろえると心もそろう

 心がそろうとはきものもそろう

 ぬぐときにそろえておくと

 はくときに心がみだれない

 だれかがみだしておいたら

 だまってそろえておいてあげよう

 そうすればきっと

 世界中の人も心もそろうでしょう

 円福寺 藤本幸邦

 

 鍵山氏の講演を聞いた数日後、私はとちぎコープを通して、この二篇のポスターを実費で譲っていただけないか鍵山氏にお願いをした。それからほどなく、それぞれ二百枚ずつのポスターが私の手元に届いた。実費もいらないとの添状があった。

 

 私は加藤教育長に相談した。そして校長先生方にも、鍵山氏の講演録「いつも瞳は澄んでいよう」を読んでいただいた。今、子供たちと話をしていて、この二篇の詩を語りかけると、「あ、町長さん、その言葉、学校で読んだよ」と答えてくれる。

 

 鍵山氏の足元にもおよばない自分ではあるが、私自身の今年の目標は「あいさつ」と「はきものをそろえる」と決めた。

 

 「凡事徹底」。鍵山秀三郎氏の信条である。

■こちらのコラムに関して

こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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